ムーミン小説の海を感じる名シーン7選
トーベ・ヤンソンが創り出したムーミンの物語は、巨大で、たびたび予測不可能である美しい海への愛とリスペクトに満ちています。ムーミン小説の中から、海の香りを感じ、岸辺に打ち寄せるやさしい波の音を聴くことができる名シーンをご紹介しましょう。あなたはどれが好きですか?
1.
「なんて青くてなめらかなんだろう。まっすぐに進もうぜ。波にゆられて眠るだけで、どこへも行きつかなくったっていいじゃないか」 『ムーミンパパの思い出』(1950年)より
2.
ムーミントロールは、太陽の光がさしこむ大波の中へ、もぐっていきました。はじめは、緑色のきらきらしたあわだけでしたが、やがて海草が森のようにしげって、砂地の上でゆれ動いているのが見えました。きれいに形がそろった海草たちには、内側がピンク色の白い貝が、かざりのようにくっついています。『ムーミンの谷の彗星 』(1946年)より
3.
草のような緑と白の波が、砂浜にたわむれています。起き抜けざま、お日さまがのぼるときに、波の中でおどりはねるって、なんと幸福なことでしょう。 夜なんて、もうわすれさられてしまいました。目の前にはまだ手つかずの、六月の長い一日があるのです。 みんなは、イルカのように波の間につっこんだり、波頭に乗って岸まですべっていったりしました。スニフは浅瀬で、バチャバチャやっていました。スナフキンはあお向けに浮かんで、ぬけるようにすき通った空を見上げながら、ずっと沖まで行きました。『たのしいムーミン一家』 (1948年)より
4.
あとからあとから、ザアーッと音をたてて波が打ちよせ、むちゃくちゃにあわをたててあばれます。それでいて、またふしぎと静かでした。 ムーミンパパの心配はすべてかき消され、しっぽの先から耳のてっぺんまで、生きる力がみなぎってきました。『ムーミンパパ海へいく』(1965年)より
5.
木々のずっと奥から、かすかな音が聞こえます。ムーミントロールはまた少し進んで、鼻先を上に向け、くんくんとにおいをかぎました。風はしめっぽくて、気持ちのいいにおいがしました。 「海だ!」 そうさけぶと、ムーミントロールはかけだしました。泳ぐことがなにより好きですからね。『ムーミンの谷の彗星』 (1946年)より
6.
荒れた海が好きな人なら、こんな住みかたこそ、もってこいです。くだける波の中にすわり、よせては返す山のような緑の高波をながめ、屋根に響く海の音に耳をかたむけるのです。『ムーミンパパ海へいく』(1965年)より7.
岸辺が遠く後ろのほうで消えてしまうと、まんまるな黄色い満月が、海の上にのぼりました。こんなに大きくてさびしいお月さまを、ムーミンパパは見たことがありませんでした。これほどにも海が、絶対的で大きなものだとは、このときまで知らなかったのです。 だしぬけに、パパはこんなことを感じました――この世でまぎれもない真実は、お月さまと、海と、三びきのしゃべらないニョロニョロが乗った、このボートだけなのだと。「ニョロニョロのひみつ」『ムーミン谷の仲間たち』 (1965年)より
ムーミンの小説には、この他にも美しい海のシーンがたくさん描かれていますよ。この夏、ムーミンの物語を読みながら、海を感じてみるのはいかがですか?
*各引用は『ムーミン全集(新版)』(畑中麻紀/翻訳編集 講談社)の『ムーミン谷の彗星』(下村隆一/訳)、『たのしいムーミン一家』(山室静/訳)『ムーミンパパの思い出』(小野寺百合子/訳)、『ムーミン谷の仲間たち』(山室静/訳)、『ムーミンパパ海へいく』(小野寺百合子/訳)より行っています。
翻訳/内山さつき