(91)みんなでお祝いしよう
クルーヴハルの暮らしに欠かせなかったヴィクトリア号
フィンランドは今が夏休みのシーズン。会社勤めの人たちも、4週間ほどの夏休みでゆっくりしているところだ。SNSはおとなしくなり、投稿も森や湖、海からの写真が続く。そして夏になって一気に賑わいだしたのがペッリンゲでのトーベ・ヤンソン関連イベントだ。
アテネウム美術館のトーベ・ヤンソン展で展示されているヘルシンキを題材にした作品に夏の景色はない。夏のヘルシンキをトーベは知らないのだ。夏といえばペッリンゲ。ヘルシンキから東に80kmのこの群島地域でトーベは夏の日々を過ごした。
ペッリンゲは「みんなでトーベのお祝いをしよう!」と盛り上がっている。トーベの思い出を皆で分かち合おうと人々が集まる。まずは夏の青空市場だ。野菜や魚と一緒にトーベ・ヤンソンの本も並ぶ。トーベと親しかった方々の話を一緒に聞くというイベントもあった。さらにフィンランドの夏の風物詩、地元の人たちが劇場を建てるところからすべて手作りでやるサマーシアターもトーベ・ヤンソンをテーマにした。サマーシアターというのは当日券でも十分なものなのだけれど、この芝居だけは違った。チケットの予約開始と同時に次々とソールドアウトが続き、本番の8月を控え、すでに全公演がソールドアウトになっている。
地元の人たち、トーベと関わりのあった島の人たちには、長らく「トーベとの思い出を語るのは、大切な友人を売ってしまうようで」という葛藤があったのだろう。でもこのお祝いの年に多くの方に聞いてもらい、トーベの思い出を分かち合い、そしてトーベ・ヤンソンのペッリンゲでの暮らしを次の世代へと語り継ごうと思い至ってくれたように思う。ペッリンゲにサマーハウスのある人たちは、トーベの英語の本を買う。外国からきたお客さんにトーベ・ヤンソンのことをもっと知ってもらいたいからなのだそうだ。
トーベが暮らした島、クルーヴハルの一般公開はひっきりなしに人がやってくる賑わい。そしてこの群島の人々の暮らしとトーベ・ヤンソンの作品、そしてトーベ・ヤンソンを紹介する展示が近くの町ポルヴォーで始まった。ここにはトーベが愛用したボート「ヴィクトリア号」も展示されている。『トーベとアーキペラゴ(群島)展』(外国語サイト)と題されたこの展示のオープニングには、ペッリンゲの人たちが大勢駆けつけた。みんな懐かしそうにヴィクトリア号を取り囲み、次々とヴィクトリア号の思い出やトーベの思い出を語っていた。
さらにこの夏は近郊の町ロヴィーサでもトーベ・ヤンソンのお祝いをしよう!と個人所蔵のものを中心にトーベ・ヤンソンの多才な面がうかがえる展示も行われている。
<ロヴィーサのトーベ100>(外国語サイト)
森下圭子
生前のトーベと親しかった方々が思い出を語ってくれました