世界中のきれいなもの
こんにちは、森番です。ついに西日本の一部の地域で、梅雨入りが発表されましたね。初夏もいよいよ終わりといったところでしょうか。先週末、森番は都内某所にてホタルを観てきました。蛍の光って、暗闇の中でぼぅっと光ったかと思うとまたすぐにぼぅっと消えて、とても美しいのですね。水辺に集う無数のホタルを橋の上から見下ろすと、銀河に散らばった星くずのようにも見えました。ああいう幻想的な風景を見ていると、昔の人たちが蛍の光を人間の魂に例えたことも、なんだか分かるような気がします。。。
こちらは蛍の光でこそありませんが、ムーミン物語中に出てくる暗闇に光る美しいものと言えば、『ムーミン谷の彗星』(講談社 / 下村隆一訳)に登場する「ガーネットのある谷間」があります。ガーネットとは柘榴石とも呼ばれる、赤い宝石。少し散歩がしたくなったスナフキンは、ムーミン&スニフをそんなガーネットが群生する谷間へと連れていくのです。荒れ地の奥へと向かって、ごつごつした岩とトゲの茂みの間をゆっくりと進む一行。ようやく「うすぐらくて、きみのわるいほどしずかで、さびしいところ」へ着くと、そこには目を見張るような光景が広がっているのでした。
『せまい谷間に、数知れぬほどのたくさんの赤い石が、ほのぐらい光の中にかがやいています。黒い宇宙にちらばった、いくつもの彗星のように・・・・・・・。』
ムーミンたちは身を乗り出して、そのガーネットのある美しい谷間を眺めました。そしてスニフは小声で、スナフキンに尋ねます。
たしかスニフは、宝石のような金目のものに目がないのでしたね。するとスナフキンは、平気な顔でこう答えるのです。
『「ぼくが、ここに住んでるうちはね。じぶんで、きれいだと思うものは、なんでもぼくのものさ。その気になれば、世界じゅうでもな。」』
人生のほとんどを旅に費やすスナフキン。きっと彼の心の中には、このガーネットのある谷間に限らず、今まで旅してきた中で発見した世界中の「きれいなもの」が存在するに違いありません。そう考えると、スナフキンの人生が、たくさんの「きれいなもの」たちに囲まれた、とても豊かなものに感じられますね。
その後、スナフキンの許可を貰ったスニフは「幸福でいっぱいになりながら」無我夢中でガーネットを採集をします。しかし宝石を採るのに夢中になる余り、谷の奥に棲みつく大トカゲの存在に気がつかなかったスニフ。大慌てで逃げてきた末、結局一つのガーネットも持ち帰ることが出来ないのでした。そんな哀れなスニフに対して、スナフキンは優しく言い聞かせます。
『「(前略)なんでもじぶんのものにして、もってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。ぼくは、見るだけにしてるんだ。そして、たちさるときには、それを頭の中にしまっておくのさ。(後略)」』
今週は「きれいなもの」をテーマに、物語中に登場するガーネットのある谷間のエピソードをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか? 今回はスナフキンの「美」にたいする哲学のようなものが、垣間見えたように思います。見るだけにして頭の中にしまっておくというのは、何ともミニマリストであるスナフキンらしい発言ですね。
(頭の中だって、いっぱいになっちゃうから、あんまりいろいろ入れたくないわよ~!by 新金庫番)
人間「きれいなもの」は何だって手に入れてしまいたくなってしまう生き物です。でも水辺に舞って光る蛍が美しかったり、谷間の薄暗い光の中に輝く赤い宝石が美しいように、その場所にあるからこそ、そのモノが本来持つ美しさが引き出されるということがありますね。そう考えるとスナフキンが言う「きれいなもの」を目に焼き付けておくという方法は、そのものを最も美しい状態で楽しむことのできる、一番いいやり方なのかもしれません。何でも画像のようにデータ化して残せる時代となった、現代社会。でもそんな時代だからこそスマホを通してではなく、自分の目で「きれいなもの」を見て頭の中にしまっておくことによって、何か別の発見や感動があるかもしれません。(きれいなものだけなら、大歓迎。by 新金庫番)
それでは今週はこの辺で、また来週お会いしましょう~。