(184)冬眠の時期に【フィンランドムーミン便り】
この夏30周年を迎えたムーミンワールド
フィンランド語で11月はmarraskuu(マッラスクー)という。死の月と表現されている。それくらい、何もかもが朽ちたような風情で、ペンキを塗り直したわけでもないのに、町並みまでが灰色に見えてくる。うっかりしていると明るいうちに散歩しそびれるほど日照時間は短くなり、もっと言えば、青空がどんなだったか思い出せないほど、晴れの日がほとんどなくなる。死の月とはよく言ったものだ。そして毎年思う、冬眠するムーミンたちが羨ましい。ちなみにヘルシンキの動物園にいるクマはすでに冬眠に入った。
私はといえば、冬眠するわけにはいかないので、ひたすら耐え忍ぶような気持ちなのだけれど、ただ、楽しめるのなら楽しみたい。ムーミンママが地下にたくさんのジャムやジュースを保管してあるように、私にも夏のうちに摘んだベリーで作っておいたジャムやジュースがある。冬のビタミン源というだけでなく、自分で作ったものは、それをいただく時に、匂いや味であっという間に夏に戻れてしまうのだ。ブルーベリーの匂いに夏の陽の暖かさを思い出したり、こけももジュースの酸味に風の匂いを思い出したりする。作っておいたベリージュースの原液は、水でなくお湯で割ってホットベリージュースにしたり、スパイスを加えてさらに体が温まる飲み物にしたりする。
それから夏の写真を見返すのも楽しい時間だ。ムーミンワールドで過ごした日の写真などは、何度見ても、つい「ふふふ」と笑ってしまうくらい、そこに来ていた人たちのこと、ムーミンたちとのふれあいなどがとめどなく思い出され、しばし幸せな夏の時間の中に浸れるのだ。ムーミンワールド内にもたくさんあったブルーベリーに気付かないくらい夢中だった家族が、ムーミンワールドを一歩出た瞬間に見つけ、必死にブルーベリー摘みを始めてしまっている一家のこと、どこに行っても物怖じしないで果敢にムーミンたちに関わりに行く女の子、恥ずかしがり屋さんがやっとの事で近づいていったり、リトルミイに背中を押されるように積極的になっていったりした子。そうだ、何にだってなれる、どうすることだってできる。そんな少し楽観的だけれど強くなれそうな思いを、あの一日に感じていたことも思い出した。
この夏、ムーミンワールドは30周年を迎えた。当時は小さな子どもたちとその家族をターゲットにしていたけれど、ここ数年で大人たちだけでやってくる人がとても増えている。一人でやってくる人もいるし、グループで何かのお祝いを兼ねて来ている人もいる。
よし、少し気持ちが軽くなった。また極夜の現実に戻るとしよう。
この夏登場したムーミンワッフル
森下圭子