ムーミンパパの帽子のひみつ【ムーミン春夏秋冬】

ムーミン族はふだん、服を着ていません。
初期の小説、たとえば、この『ムーミン谷の彗星』の挿絵では、ハンドバッグを持っているのはムーミンママだとわかりますが、ムーミントロールムーミンパパスノークを見分けるのはとても困難。

小説よりも絵で伝える要素の強いコミックスでは、基本的に小物を身につけた姿で描かれています。ムーミンママのトレードマークはしましまのエプロンとハンドバッグ、ムーミンパパは帽子とステッキ、何もないのがムーミントロールです。

ムーミンパパといえばいつも同じ黒いシルクハット……と思いきや、実はいろんな帽子をかぶっているってご存知でしたか?
今回は616日の父の日にちなんで、ムーミンパパのファッションに注目してみましょう。

ムーミンパパの最初の帽子?

シルクハットが重要な役割を果たすのが、小説『たのしいムーミン一家』

ある春の日、冬眠から目覚めたムーミントロールとスニフスナフキンは山へ探検に出かけ、山頂で黒いシルクハットを発見。ムーミンパパが喜ぶかもしれないとムーミンやしきに持ち帰ります。

ムーミンパパは帽子をていねいに調べて、居間の鏡台の前でかぶってみましたが、大きすぎて前が見えなくなるほどでした。
ムーミンママは慰めるように「かぶらないほうが威厳があると思う」と言い、ムーミンパパも「気取ってかざりたてる必要もあるまい」と同意します。つまり、この段階では、ムーミンパパにとって帽子はマストアイテムではなかったのです。

おそらく、これがムーミンパパが最初にシルクハット姿で描かれた挿絵だと思われます。

灯台守の帽子

『ムーミンパパ海へいく』で新しい生活を始めたとき、ムーミンパパは灯台に残されていた灯台守の帽子を着用。
てっぺんはよれよれで、ふちのたれ下がった形は、スナフキンの帽子とも似ているような? シルクハットよりも実用的で、島暮らし向きですね。

物語の終盤、ムーミンパパは灯台守の帽子をかぶり、漁師は黒いシルクハットをかぶっています。はたしてその意味するところ、ふたりの帽子の行方は……? 

帽子がアイデンティティ?

短編集『ムーミン谷の仲間たち』収録の「ニョロニョロのひみつ」には、ムーミンパパにとって帽子がいかに大切かを表す記述があります。

なにもかもが白くてざわざわいっていて、得体の知れない島で、そのぼうしだけがただ一つ、たしかでゆるぎないものでした。
ムーミンパパは、もはや自分自身を信用できませんでしたが、そのぼうしだけは、信じることができました。
(『ムーミン谷の仲間たち』 講談社刊/山室静訳)

ニョロニョロの群れと旅に出て、自分を見失いかけたムーミンパパが拠り所としたのが、「ムーミンママからムーミンパパへ」と内側に書かれたシルクハットだったのです。

コミックスでかぶっているのは?

コミックスでのファッションもいくつか見ていきましょう。

通常は黒いシルクハットですが、船旅に出かける「ムーミン、海へいく」では平べったい船長の帽子姿。

ところが、ムーミンママから「いつもの帽子じゃないとあなただとわからない」と言われてしまいます。「わたしの特徴は帽子だけなのか?」と憤慨しながらも、提案を受け入れて、いつものシルクハットに金モールをつけて船長ふうに。

「南の島へくりだそう」でリゾート地に滞在中、花かざりをつけてセレブ気分で優雅なバカンスを満喫。

「ムーミンパパの灯台守」では、島に出かける前からレインハットをかぶり、小説のインスピレーションを得ようとしています。

「タイムマシンでワイルドウェスト」ではカウボーイハットにウェスタンブーツ。

他にも、ひまわりのような花や鳥の羽根など、さまざまなアレンジを見つけることができますので、ぜひ探してみてくださいね。

そういえば、トーベ・ヤンソン生誕110年の特別なアートシリーズのムーミンパパは帽子にぐるっとスイセンのような花冠をつけています。
「たのしいムーミンキルト」の図案のようにシルクハットそのものがムーミンパパのシンボルとして使われているグッズもあります。

ムーミンシリーズでおしゃれ上手といえばスノークのおじょうさんミムラねえさんの名前が挙がりますが、ムーミンパパもなかなかのオシャレさん! ムーミンパパモチーフのダンディなグッズは父の日ギフトにも最適です。

今後、他の登場人物たちのファッションについてもまた詳しく取り上げていきたいと思いますので、どうぞお楽しみに。

文/萩原まみ(text by Mami Hagiwara