(224)芸術家一家と群島の春【フィンランドムーミン便り】
トーベ・ヤンソンとトゥーリッキ・ピエティラのレコードコレクションから。
ヘルシンキ美術館HAM(ハム)にはトーベ・ヤンソンの作品が展示されている一角がある。トーベ・ヤンソンギャラリーと名付けられたそこには、大きなフレスコ2点の常設に加えて、企画によって作品が入れ替わるコーナーがある。このたびトーベ・ヤンソンギャラリーが企画展示部分を拡大。第一弾として全員が芸術家というヤンソン一家に焦点をあてた企画展が行われている。
かつてトーベ・ヤンソンのすぐ下の弟さんが、トーベは母が用いた技法でイラストを描いていると話してくれたことがあるけれど、それぞれに個性のある芸術家一家でありながら、ときどきトーベか母か誰の作品か、ぱっと見ただけではわからない時がある。それぞれ個性がありながら、でもこの家族の中で育まれた何かを生み出す情熱や先入観のなさが滲み出ている作品には、どこか共通点のようなものがあるような気がした。違っているのに、どこか繋がっている。家族それぞれの作品を一緒に見られるのはなんとも贅沢だ。
よく考えてみたらトーベが夏を過ごした群島ペッリンゲだって、子どもの頃から続いていたこと。家族で見つけた場所だ。ペッリンゲはトーベの両親にとっても弟たちにとっても欠かせない場所になり、それぞれがそれぞれの場所を見つけて夏を過ごした。
2月、海は完全に凍てつき、どこを向いても青い空と真っ白の世界だったペッリンゲは、3月に入って日々刻々と景色を変えた。照りつける太陽は暖かく、ぐんぐんと日照時間をのばしている。凍ったときに水位が低くなっていた海は、釣りや寒中水泳で氷に穴を開けるたびに水が溢れてきて氷の上に水たまりを作った。こけももの葉や苔に覆われている森の土が暖かくなってきたのか、森はあっという間に雪をとかして地面が顔を出す。海の氷はそれでもビクともしないのかと思いきや、ところどころ潮の流れで人が乗ると割れるようなところが出てきた。凍った海を歩きながら聞いていたキツツキの音は、凍てついた空気を伝って世界に語りかけるように聞こえていたのに、春めいた風景の中で聴くキツツキの音は自分のことに夢中なように響いた。冬の森で秘密を分かち合うように見つけた雪の上の野生動物たちの足跡も、ぬかるみに残された春のそれは、どこか自分のことで急ぐ足跡に見えた。
自分に名前ができて忙しそうにしているティーティ・ウーのことを思い出し、そのタイトルが「春のしらべ」だったと気づいた。海の氷が割れ、やっとのことで海にボートが出せるようになったとある春の日に、今年は今から何がなんでもクルーヴハル島で暮らすと言って周囲を驚かせたトーベのことも思い出す。
ヘルシンキ美術館のトーベ・ヤンソンギャラリーは、展示デザインも見どころのひとつ。
森下圭子

