ムーミンパパとムーミンママはいいふうふ?【ムーミン春夏秋冬】
11月22日は「いい夫婦の日」。
日本中の夫婦・カップルが感謝の気持ちをかたちにするきっかけの日として制定されたのだそうです。
ムーミン谷で夫婦といえば、真っ先に思い浮かぶのはムーミンママとムーミンパパですよね!?
ところが、実はこのふたり、結婚しているかどうかさだかではありません。
そもそもムーミンの世界において「結婚」とは何を指すのでしょうか?
ロッドユールとソースユールの結婚式
制度そのものが存在しないわけではなく、小説『ムーミンパパの思い出』で、ボタンの交換や散歩を通じて愛を育んだロッドユールとソースユールは結婚式を企画。招待状を発送しますが、招待客が集まるのを待ちきれず、結婚してしまいました。
ロッドユールは若きムーミンパパたちと海のオーケストラ号に乗り込んで海を渡った冒険仲間ですが、お話の途中でいきなり登場するソースユールの挿絵は3点ほどしかありません。
そのため、グッズなどでもウェディングの絵が使われていることが多く、箱庭アプリゲーム「ムーミン〜ようこそ!ムーミン谷へ〜」でも白いロングドレスにベール、花かんむり、しっぽにリボンをつけて歩き回っています。
若いムーミン族の出会い
『ムーミンパパの思い出』の終盤、ムーミンパパとムーミンママの運命の出会いについて語られます。
ある嵐の夜、大波にもまれながら流されてきたのはのちのムーミンママ、駆け寄って手を差し伸べたのがのちのムーミンパパでした。
この場面は12月29日(金)公開の映画『ムーミンパパの思い出』でもドラマティックに描かれています。
© Filmkompaniet / Animoon
同映画は1990年から放送された日本制作のテレビアニメシリーズ『楽しいムーミン一家』の声優陣が再集結したことでも話題で、若いムーミンパパはムーミントロール役の高山みなみさん、若いムーミンママの声はスノークのおじょうさん役のかないみかさんが演じています。出会いのシーンの掛け合いは特にかわいらしいので必見!
スナフキンと父ヨクサルは子安武人さん、リトルミイとミムラのむすめ(ミムラねえさん)に佐久間レイさん、スニフと父ロッドユールに中尾隆聖さん。ソースユールとロッドユールの仲良しな姿もお見逃しなく。
© Filmkompaniet / Animoon
結婚とは無縁のママミムラとヨクサル
ロッドユールとソースユールはスニフ、ムーミンパパとムーミンママはムーミントロール、それぞれ息子を授かります。
もうひとりの冒険仲間ヨクサルは、大勢の子どもたちをひとりで育てているママミムラ(ミムラ夫人)と出会い、その豪快さに惚れ込んで、ふたりの間にはスナフキンが誕生。
ママミムラはスナフキンの前にちびのミイ(リトルミイ)も生んでいますが、その父親は不明。
ムーミンパパから当時の話を聞いたスナフキンは「ちびのミイはぼくの親類になるのか」と呟いており、スナフキンとミイは異父姉弟と解釈されています。
束縛を嫌い、自由気ままに生きるヨクサルと、子だくさんのママミムラ。結婚には関心のなさそうなカップルですが、同作のエピローグに揃って姿を見せているので、関係は継続しているようです。
「いい夫婦」とは?
一見、理想の夫婦像のようなムーミンパパとムーミンママ。
ふたりは愛し合い、思いやりあって暮らしていますが、原作を読むかぎり順風満帆とは言い切れません。
最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』で、ムーミンママは幼い息子を連れて旅をしています。
ニョロニョロといっしょにいなくなってしまったムーミンパパを探し、厳しい冬を乗り切るための住み処を探しているのです。
このお話は一家が再会し、ムーミンパパの建てたムーミンやしきに辿り着いて、めでたしめでたしで終わります。
ところが、『ムーミン谷の仲間たち』収録の「ニョロニョロのひみつ」において、ムーミンパパは再び出奔してしまいます。
夫婦、家族それぞれの気持ちに関心がある方には、『ムーミンパパ海へいく』がおすすめ。
この挿絵のふたりのなんともいえない表情の理由、気になりますよね。
トーベの両親
原作者トーベ・ヤンソンはムーミンママのモデルは母シグネだと書き残しており、ムーミンパパにも父ヴィクトルの面影が反映されています。
父ヴィクトルは彫刻家でしたが、収入は安定しておらず、母シグネが切手のデザインや雑誌の挿絵の仕事で暮らしを支えました。
ムーミンパパの職業は作家ですが、それで稼いでいる様子はありません。
コミックス『ムーミンパパとひみつ団』で、ムーミンやしきを訪ねてきた旧友のウィムジーが穏やかな家族との暮らしを羨ましがる一方、ムーミンパパは逆にハチャメチャだった日々を懐かしがって、青春を取り戻す旅に出ようと言い出します。
コミックス『ムーミン谷のきままな暮らし』でもウィムジーとトランプに興じたり、コミックス『預言者あらわる』では木の上で生活を始めたり、スティンキーと密造酒を作ったり……。
芸術家仲間を集めて大騒ぎするのが好きだったヴィクトルの姿が重なるかのようです。
トーベと結婚
トーベ自身は1943年にアトス・ヴィルタネンと出会い、1952年まで交際。
当時、婚姻関係にない男女が同棲することへの風当たりが強かったにも関わらず、結婚はしませんでした。
トーベが結婚を望まなかった理由を要約すれば、男性に振りまわされずに創作を続けたい、戦争に行ってしまうかもしれない子どもを生みたいと思わなかった、などがありますが、詳しくは評伝『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』で本人の言葉に触れてみてください。
その後、1955年から2001年に86歳でこの世を去るまで、トゥーリッキ・ピエティラと人生を分かち合いました。
フィンランドで同性愛が違法でなくなったのは1971年、同性婚が実現したのは2017年。
トーベはトゥーリッキと共に公の場に出席し、二度の日本旅行にも同伴するなど、事実上の「ふうふ」として過ごしましたが、生前のトーベと親交のあった編集者の横川浩子さん(ムーミン公式ファンクラブ限定ページで読書案内を連載中。ヤンソン家のお墓の写真も掲載されています)によれば、ふたりは正式な結婚をしていなかったため、別々のお墓で眠っているそうです。
ムーミン谷のカップルとそうでないものたち
ムーミンの物語を見渡してみると、前述のとおり、結婚式を挙げているのは小説ではロッドユールとソースユール。
コミックスには『イチジク茂みのへっぽこ博士』で出会ったロッドユールと瓜二つの息子クロットユールとスクルッタが、結婚生活のなかですれ違っていく『Fuddler and married life』というラルス執筆のエピソードがあります。
夫婦として扱われているのはムーミンママとムーミンパパ、『ムーミン谷の夏まつり』の公園番と奥さん。
劇場ねずみのエンマは夫のフィリフヨンクを亡くしています。
そういえば、同作にはスナフキンが身寄りのない森の子どもたち24人の世話に追われる逸話があり、親のいない子どもたちという存在も描かれます。
原語では性別を限定しない形で書かれたカップル、トフスランとビフスラン。
ムーミントロールとスノークのおじょうさんは恋人同士ですが、コミックスではムーミントロール以外に熱をあげるエピソードが多々あります。
新作テレビアニメ『ムーミン谷のなかまたち』やアラビアムーミンウィンターマグでおなじみのブリスクもそのひとり。
明らかに単身なのは前出のウィムジー、『ムーミンパパの思い出』のフレドリクソン、ミムラねえさん、フィリフヨンカ(コミックスでは3人の子どもがいるものの夫/父親は不在)、ヘムレンたち、トゥーティッキなど。
それぞれが自分らしく生きているムーミンたち。そんな彼らに想いを馳せつつ、11月22日は「いい夫婦」以外の方も、「いいにんげんになる日」「いいニコニコの日」として楽しくお過ごしになれますように!
文/萩原まみ(text by Mami Hagiwara)