災害とムーミンたち【ムーミン春夏秋冬】
9月1日は防災の日。1923年9月1日に発生した関東大震災にちなんで制定されました。当日は過ぎてしまいましたが、9月は防災月間としてさまざまな行事や防災訓練が行われます。
ムーミンといえばのどかなイメージがあるものの、実は最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』から、災害に見舞われる様子がたびたび登場。
とりわけ、第二作の小説『ムーミン谷の彗星』では、迫り来る彗星の脅威が描かれています。
ムーミントロールは、スニフの見つけた新しい道をたどって、海で素晴らしいひとときを過ごします。しかし、それも束の間、その日の午後には大粒の黒っぽい雨が降り始めました。
翌朝には空も木々も家もすべてが灰色になり、じゃこうねずみは「地球がほろびる」と言い出します。
恐怖の正体を知るための旅
いったい何が起こっているのか、本当のことを確かめようと、ムーミントロールとスニフは天文台へと向かうことにしました。
その途中、スナフキン、スノーク、スノークのおじょうさんと出会い、いっしょに旅を続けます。
天文台の学者によれば、彗星は八月七日に地球に衝突する見込み。不気味な赤い光を放つ彗星が日に日に接近し、沼も海も干上がっていきました。
一行は竹馬をこしらえ、かつて海だった場所を渡って、ムーミン谷をめざします。
彗星が衝突すると予告されたその日、ムーミンたちはやっとムーミンやしきに帰りつきました。
ムーミン谷に彗星が衝突!?
大騒ぎをしながら荷物を整え、より安全だと思われるどうくつへとみんなでお引っ越し。
ところが、ちょっとした行き違いから機嫌を損ねたスニフが、子ネコを探しにどうくつを飛び出してしまったのです。
刻一刻と運命の時間が近づくなか、スニフを追ってムーミントロールも外へ!
そして、いよいよ彗星が……!
繰り返し描かれた「彗星」モチーフ
あらすじだけをなぞっていくととても怖く感じられますが、そんななかでもダンスを楽しんだり、ムーミンママはケーキを焼いたり、温かい描写や美しい挿絵のおかげで暗いお話という印象は受けません。
トーベは彗星の物語を1946年に『彗星追跡』として出版した後、1956年に『彗星を追うムーミントロール』、1968年に『ムーミン谷の彗星』(原題『彗星せまる/彗星がやってくる』)と、改稿を重ねています(詳しくはこちらの記事もどうぞ)。
日本ではちょうど初の文庫サイズハードカバー特装版が出たばかり! ご覧のように、美しい挿絵&名言の入ったアートカードとシール付きで、コレクターズアイテムとしてもたまらない仕上がりです。
こちらの本文は最新/最終のスウェーデン語版を底本として日本語訳を改訂した新版ですので、旧版をお持ちの方は読み比べもおすすめ。もし、海外で出版された1956年版準拠版があれば、挿絵の違いも楽しめますよ。
二度のコミックス化
トーベが最初に描いたムーミンのコミックスも「彗星」がテーマでした。
1947~48年、スウェーデン語系の新聞『ニィ・ティド』紙に連載していた「ムーミントロールと地球の終わり」です。
日本ではムーミン・コミックス『ひとりぼっちのムーミン』で読むことができます。
小説とよく似たコマがある一方、虫と間違われて採集ビンに閉じ込められていた(!)トフスランとビフスランが旅に同行したり、彗星ネコというキャラクターが登場したり(彗星ネコの姿はこちらのブログで見ることができます)、とても興味深くレアな作品です。
また、1958年には『彗星がふってくる日』として、再びコミックス化。
こちらではスノークのおじょうさん、リトルミイとともにすっかり変わってしまったムーミン谷を探検します。
スティンキーは混乱に乗じて、あやしい薬を販売。
スニフはふしぎな力で身を守るという呪文を売りつけようとしています。
怖がりやの小説のスニフとは一味違うたくましさがありますね。
いざというときの備えを
非常時の恐ろしいところは恐怖心につけこむ商法が横行したり、不確かな情報が飛び交ったりしてしまうこと。
インチキ商売をしてはいけないのはもちろんですが、デマに惑わされない心構えも大切。いざというときに慌てないよう、しっかりと準備をしておきたいですね。ムーミンのかわいい防災アイテムもぜひお役立てください。
ムーミンのお話で災害といえば、特に印象的なのが短編「この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ」(『ムーミン谷の仲間たち』収録)。
ずっと落ち着かない気持ちを抱え、災いの気配に怯えていたフィリフヨンカ。本当に嵐がやってきたとき、どんな心境になったのか。個人的にとても好きなエピソードのひとつで、こちらのブログでも詳しくご紹介しています。
思いやりと助け合い
小説『ムーミン谷の夏まつり』で、ムーミンやしきが水没して住めなくなり、ムーミン一家と友人たちが流れてきた大きな家(実は劇場)に移り住んだとき、家主のエンマはお芝居のことを何も知らないムーミンたちにあきれながらも追い出したりせずに受け入れてくれます。
物語の終盤には、スナフキンが連れてきた身寄りのない森の子どもたちも劇場に住み続けることに。
小説『ムーミン谷の冬』では、あまりの寒さに食料が乏しくなって困り果てたものたちがムーミン谷へと避難。ムーミントロールは彼らをやしきに住まわせ、ジャムをふるまいます。
現実の世界では年々、猛暑が厳しくなり、地震や自然災害の激甚化が進んでいるように感じます。自分の身を守る備えをすると同時に、被害にあわれた方々への追悼の気持ちを忘れず、復興支援も続けていきたいですね。
文と写真/萩原まみ(text by Mami Hagiwara)